【レポート】ふくつ環境シンポジウム2019~生き物のつながりから考えよう、福津の自然とSDGs~
2019年10月5日(土)にふくつ環境シンポジウム2019を開催いたしました。今回のシンポジウムには、市内の小・中学生も多く参加し、約150名の参加者と福津市の自然環境や生物多様性、SDGsについて考える会となりました。
環境デザイン研究室は、第2次福津市環境基本計画・生物多様性ふくつプランの策定時から、福津市と協働で環境シンポジウムを開催しており、今回のシンポジウムで10回目となります。本シンポジウムは、原﨑市長のあいさつから始まり、環境デザイン研究室の伊東啓太郎教授から生態学を活かしたまちづくりや人と自然のつながりについて、フロリダ大学のマーク・ホステットラ―教授からはフロリダで実践されている生態系保全の取り組みや鳥と人がともに暮らせるまちづくりについて、福津市の松田美幸副市長からはSDGsの観点から考える福津市のまちづくりについてお話していただきました。その後は分科会形式で会場を分け、沿岸環境の生きもの、里山、海岸マツ林、子どもの遊び場の4つのテーマで福津市の自然環境についてお話していただきました。分科会後は、環境デザイン研究室と福津市うみがめ課で開発を続けてきた『ふくつ生きものカードゲーム』を使って、地域の生きものや自然環境と私たちの暮らしのつながりについてみんなで考えました。
マーク先生をはじめ当日発表していただいた皆様、参加してくださった皆様、そしてシンポジウムの準備を一緒に進めてきた福津市うみがめ課の皆様、ありがとうございました。(文章:長谷川逸人、古賀亜希子)
以下、講演者の発表内容です。
「自然の恵みを活かすまちづくり」(伊東啓太郎教授(九州工業大学))
本シンポジウムのオーガナイザーである伊東啓太郎教授は、第2次福津市環境基本計画・生物多様性ふくつプランを策定した2014年から現在に至るまでの6年間、継続して福津市の環境づくりと生物多様性保全に関するプロジェクトを行っています。今回の講演では、生態学を活かしたまちづくりや人と自然の繋がりについてお話していただきました。お話の中では、SDGsの17の目標を達成し、持続可能なまちにするためには自然環境保全への取り組みが重要であることをストックホルム・レジリエンスセンターが作成したSDGsウェディングケーキモデルを用いて説明していただきました。また、ドードー鳥とCalvaria majoeという樹木、アリとスミレなどの共生関係を例に、生物多様性の考え方についてお話していただきました。最後に、今後環境保全を進めていく際に助け合いが必要であり、そのためにも、皆が集まり福津の自然環境やまちづくりについて話す機会をこれからも継続して作っていきたいと述べられました。福津市のみなさんが情報共有を行いながら自然環境について考えるこのような会がこれからも続いてほしいと改めて思いました。(文章:柳田壮真)
「生きもののつながりを育てるまちづくりGreen Leap : Designing and Managing Cities for Birds and People」(マーク・ホステットラー教授(フロリダ大学)通訳:松田美幸 福津市副市長、伊東啓太郎教授)
フロリダ大学のマーク・ホステットラー教授は伊東啓太郎教授と共同研究をされており、その繋がりで今回のシンポジウムでお話していただけることになりました。マーク教授からは、フロリダで実践されている環境政策と環境保全の取り組みについてお話していただきました。マーク教授は鳥の繁殖地、越冬地、一時滞在地としての都市の機能を評価するツール(Building for Birds)を開発されており、都市の中の小さな緑地は鳥の移動の際の一時滞在地として、大きな緑地は鳥の生息地としてそれぞれ大きな役割を担っていることなどを紹介していただきました。このツールを使えば、鳥の専門家でなくても、鳥と人がともに暮らせるまちづくりを進めることができます。またフロリダでは、バス停などの人が集まる場所に地域に生息する生きものや自然環境について書かれた案内板を設置して、内容を4ケ月ごとに交換しています。こういった飽きさせない工夫を取り入れた環境保全の普及活動によって、市民の自然への意識が高まっているとのことです。こういった取り組みを参考にして、福津市でも地域の自然環境に関心を持ってもらえるような普及活動ができればと思います。シンポジウムの最後には、題名にある「Leap」は「飛躍、ピョンっと大きく前に進むこと」という意味であり、継続していくこと、そしてLeapすることが大切だというお話がありました。マーク教授のお話を聞き、鳥を含む多様な生きものと人がともに暮らすことのできる豊かな社会の実現に向けて、これからも環境保全の活動に力を入れていきたいと思いました。(文章:古賀亜希子)
「SDGs未来都市ふくつのチャレンジ」(松田美幸 福津市副市長)
福津市の松田美幸副市長からは、SDGsの観点から福津市のこれからのまちづくりについてご紹介いただきました。福津市は今年度からSDGs未来都市に選定され、市民協働で幸せのまちづくりを目指しています。SDGsの17の目標は5つの「P」で表すことができますが、福津市では、6つ目の「P」として、それぞれが参加(Participation)して伝える役を担うことが求められているとお話していただきました。私も本シンポジウムのような環境保全のイベントに参加するだけではなく、もう一歩先のステップとして、学んだことを人に伝えていきたいと思います。また、福津市では第1回ふくつSDGs賞を募集しておられるそうです。ふくつSDGs賞は、「市民協働で推進する幸せのまちづくり」のために優れた取り組みを行うとともに、SDGsの理念を分かりやすく伝え、広げる事例となる個人、企業・団体を表彰するものです。ご自身や周りの方の取り組みについて、ぜひ応募してみましょう。(文章:古賀亜希子)
分科会①「ふくつの海・干潟の生きもの」(品田祐輔氏(福津市役所))
福津の生きもの博士として有名な福津市役所の品田祐輔さんからは、福津市の多様な沿岸環境とそこに生息するさまざまな生きものを紹介していただきました。福津市の海岸線は22~23km(JR福間駅からJR博多駅まで)の長さがあり、砂浜、岩礁帯、アマモ場、干潟などの多様な沿岸環境が存在しているとのことです。スカシカシパンというおもしろい形のウニやサメの赤ちゃんなど、全て品田さんが実際に見たり捕まえたりした生きものが紹介され、多くの小学生を含む参加者が熱心に話を聞いていました。また、アマモ場には波を抑えるはたらきがあり多くの魚の生息地になっていますが、漁港内のスロープにも同様のはたらきがあり、未成魚の生育場所としての機能をもつ可能性があると述べられていました。マダイやメジナ、スズキなど、私たちが普段食べている魚はアマモ場や漁港内のスロープを小さい時の成長の場所としており、これらの場所を残していくことが私たちの暮らしにもつながっていることを感じました。また、干潟には泥が多い場所と砂が多い場所があり、生息する生きものがそれぞれ違うことなどをご紹介いただきました。最後に、多様な沿岸環境の存在が福津市特有の豊かな生物多様性の基盤になっていること、特定の種に限定した保全・保護は他の生きものに大きな影響を与える可能性があることなどをお話していただき、広い視野を持って自然環境を保全していく必要があることを学びました。(文章:古賀亜希子)
分科会②「ふくつの里山・干潟・海のつながりについて考えよう-高校・大学の協働による大峰山の森づくり-」(近藤ゆういさん,松本大空さん,戸畑翔希さん,河野寛喜さん(水産高等学校),長谷川逸人(九州工業大学環境デザイン研究室))
分科会②では、大峰山で森づくりに取り組んでいる水産高校とともに、里山と海、干潟のつながりの観点から大峰山の自然環境について考えました。九州工業大学M2の長谷川から「里山」の説明を行った後、大峰山の自然環境について、これまでの研究で分かってきたことを紹介しました。そして、大峰山は津屋崎干潟や海とつながっており、栄養や土砂の流れ込みを健全に保つためにも森林の手入れが必要であることを伝えました。そして水産高校からは、海と山のつながりについて説明した後、水産高校で実践している森づくりの取り組みについて紹介がありました。水産高校では、切った竹を活用した「竹漁礁」を何度も改良しながら作成しており、沈めた竹漁礁は様々な種類の魚の生息環境や産卵環境として効果が見られています。さらに今年から取り組んでいる「ぎょしょく活動」についても紹介がありました。「ぎょしょく」とは「魚食」「魚触」「魚殖」の3つの意味があり、それぞれの活動に一般の方々も参加しながら、活動の輪を広げながら取り組んでいることを紹介していただきました。最後には、SDGsのウエディングケーキの図に併せて、水産高校での取り組みを環境・社会・経済の視点でまとめていました。福津市の里山、干潟、海などの自然環境は、見た目ではわかりにくくとも劣化しており、異なる環境間のつながりについても考えながら保全の仕組みを作っていくことが重要です。(文章:長谷川逸人)
分科会③「海岸マツ林を守り・育てる人のつながり」
(廣渡策生さん(福間地域郷づくり推進協議会)、柳田壮真(九州工業大学環境デザイン研究室))
分科会③では、福間地域で海岸マツ林の保全活動に携われている廣渡策生さんと九州工業大学の柳田が海岸マツ林の環境や現在の保全活動についてお話し、これからの保全の方法について参加者の皆さんと考えました。
九州工業大学M2の柳田から、海岸マツ林は放っておくとマツ林じゃなくなってしまうことや、これまでの人との関わりについて説明し、廣渡策生さんからは、どのような活動でマツ林を守っているのか、誰が活動しているのかをお話していただきました。福間地域の海岸マツ林保全活動には、小中学生、企業、地域の方が参加しており、参加者は年間2000人だそうです。たくさんの方が海岸マツ林に関わり、守り、育てているとおっしゃっていました。多くの人と一緒に活動するために、「無理をさせない」「活動時間を守る」「安全管理を徹底する」ことを大切にしているとのことです。しかし、全体の参加人数の増加とは逆に、地域の方の参加人数は減少しているそうです。これまで活動してきた方たちの高齢化が原因だとおっしゃっていました。どのように世代交代していくかが課題だと述べられました。
海岸マツ林は様々な人が関わり形成された福津市の代表的な景観だと思います。無理のない活動の継続によって、海岸マツ林がさらによりよい環境になればと思います。(文章:柳田壮真)
分科会④「発見がたくさん!-日本・ノルウェーの身近な自然の遊び場・学び場-」
(須藤朋美先生、飯川裕基(九州工業大学環境デザイン研究室))
分科会④では、九州工業大学の須藤朋美先生とM2の飯川が日本とノルウェーにおける自然の遊び場・学び場の研究紹介を通して、ふくつの自然環境を子どもたちの遊び場・学び場としてどのように活用しながら守るのかについて考えました。
まず、福岡市立壱岐南小学校と環境デザイン研究室が17年間続けている壱岐南小学校ビオトーププロジェクトについて飯川が紹介しました。本プロジェクトでは、2002年に壱岐南小学校と環境デザイン研究室の協働で学校ビオトープの設計・施工を行い、現在は子どもたちの遊び場・学び場として活用・マネジメントを行っています。子どもにとって身近な自然環境である小学校の中のビオトープは、都市の中における生き物の生息地となっているだけでなく、自然の中で遊べる場所、環境マネジメントを通して地域の生態系や環境保全について学ぶ場所となっています。地域にある自然環境を子どもと一緒に活用・保全することが、地域にある子どもの遊び場・学び場を守ることにつながるのではないでしょうか。
須藤先生からは、伊東先生、インガン先生(サウスイーストノルウェー大学)と行っているノルウェーの共同研究をもとに、子どもたちが自由に使い遊ぶことのできる地域の自然についてご紹介いただきました。ノルウェーの子どもたちは、地域にある自然の中で生き物を観察したり、木の実を採ったり、自分の居場所を見つけたりと、いろいろな遊びをしています。それらの遊びの中には、子どもたち自身で考えた遊びもありますが、大人たちが伝えることで始まる遊びもあります。ふくつにある地域の自然に、子どもたちと一緒に出掛けることで、様々な発見があるのではないかとお話されました。(文章:飯川裕基)
ワークショップ
福津市の生きものと人の活動を題材とした『ふくつ生きものカード』を使って、カードゲームを行いました。『ふくつ生きものカード』は、人間の活動が自然環境に与えるさまざまな影響や、自然環境から人間が得られる恵みを再確認し、地域の生きものや身の回りの自然環境への関心を深めてもらうことを目的として、環境デザイン研究室と福津市うみがめ課が共同で作成しました。ルールの共有に時間がかかってしまいましたが、参加者どうしでコミュニケーションをとりながら、福津市の自然環境について理解を深めることができました。福津市には絶滅危惧種を含む多様な生きものが存在していること、人が使うことによって生きものの生息地を保全している例があることなどを知り、参加者それぞれが以前より福津の自然環境に興味を持ってもらえていたら嬉しいです。私自身もカードの作成を通して、福津市の自然環境や生きものに対する理解が深まったとともに、楽しみながら勉強ができるツールを作ることの難しさを身に染みて感じました。シンポジウム後のアンケートでは、「多くの生きものや生きものの生息に必要な自然環境を知ることができた。」「自然環境や環境問題、保全している人々などがカードに書かれているのがよかった。」などの意見や、「ゲームが難しく、カードの内容は頭に入ってこなかった。」などの意見もありました。今後このような意見を踏まえながら、『ふくつ生きものカード』の改良をねていきたいです。参加してくださった皆様、本当にありがとうございました。(文章:古賀亜希子)