【レポート】ふくつ環境シンポジウム2019(1月26日)

1月26日(土)福津市文化会館カメリアホールにて、ふくつ環境シンポジウム2019「持続可能なまちづくりに向けて~環境・経済・人づくり~」を開催いたしまし た。福津市内外からおよそ200名が参加し、環境保全活動の共働のしくみや今後の展開について考えました。

 

 

星野幸代さん(国連ハビタット福岡本部)からは、コミュニティ中心のまちづくり「People’s process」の取り組みについてお話していただきました。People’s processでは、地域住民の知恵や知識をもとに住民たちの話し合いを通してまちづくりが行われます。また、自分達にできることは自分たちで行うことで、技術・知識を学びながらまちづくりを行います。星野さんは、地元住民によるまちづくりという復興活動を行っていますが、住民らが技術・知識を持ち、次世代に伝承されることで持続可能なまちづくりにつながると述べられました。

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インガン・フィヨルトフト教授(サウスイーストノルウェ

ー大学)からは、変化し続ける自然環境の中でうまれる子どもの多様な遊びと学び、自然体験を通して発達する身体機能についてお話していただきました。また、ノルウェーで取り組まれている「Sustainable Backpack」についてもお話していただきました。Sustainable Backpackは、子どもたちが自然に関心を持つ、調査道具をバックパックに詰め野外に出かけて調べる、調査結果について説明する、詳しくまとめる、というプロセスで学習する教育カリキュラムです。カリキュラムの中で、子どもたちは様々なことを学び、また、学習したことを地域の人に伝えることで、地域の環境を守ることにつながっていると述べられました。

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 鎌田磨人教授(徳島大学生態系管理工学研究室)からは、昨年10月に改訂された生物多様性とくしま戦略の4つの重点プロジェクトについて、各プロジェクトの目標と具体的な取り組みを紹介していただきました。生物多様性地域戦略が生物を守るためだけの政策ではなく、グリーンインフラ・地域づくりの基盤としての生物多様性・生態系の重要性を共有するため、政策・施策を様々な事業部局と協力し、住民の声を集めながら広げていく土台として機能することが重要であると述べられました。

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 朝波史香さん(徳島大学生態系管理工学研究室)からは、徳島で取り組まれている証券会社との連携についてお話していただきました。環境保全に対して誰がどのようにコストを支払うかという課題に対して、金融業界で注目されているESG投資(環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した企業への投資)に着目し、金融業界に生態学研究者が関わることが求められていること、環境保全における金融機関と連携した資金調達のしくみづくりの可能性について述べられました。

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 柴田富美子さん(藍の家保存会)からは、以前の美しい津屋崎・福間の自然環境の紹介とともに、これから私たちがなにをしていかなければいけないのかご自身の想いを話していただきました。柴田さんは60年前に津屋崎に移住され、当時見ることができた美しい山・海・松林の風景について当時の体験をもとに紹介されました。しかし津屋崎・福間の開発が進み、貴重な植物は姿を消しました。貴重な自然環境の保全に努めていた柴田さんたちの声は、当時聞いてもらえなかったそうです。お話の中で柴田さんは「過去は過去。今はみんなで守らなければならないものを守っていかなければならない」とお話されていました。そして、子どもたちにもっと福津の自然について考える機会を与え、みんなで知恵を出し合い、協力して自然環境を守っていきたいとお話されました。

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 伊東啓太郎教授(九州工業大学環境デザイン研究室)からは、以前の福津に近い自然環境を取り戻すために私たちにできることについてお話していただきました。伊東教授は、柴田さんから60年前の津屋崎の環境についてお話を聴いたことをきっかけに、福津環境保全に繋がる研究や活動をされています。研究では福津保全すべき環境を明らかにし、結果として第二次福津環境基本計画で重要な7つの環境が選定されました。それらの環境を保全するために、郷づくり地域との連携や、柴田さんも述べられたように観光資源としての認識・活用の重要性について触れられました。そして伊東教授は、以前の自然環境を復元するためには具体的な目標を定め、住民と行政が連携して取り組むことが重要であると述べられました。

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 松崎俊一さん(福津市うみがめ課)からは、福津市の歴史、自然環境の変化について大正9年に占部文蔵さんが書き上げた回想録をもとにお話していただきました。福津市の自然の70%におよぶ人が関わり続ける必要がある自然(人工林)の管理、関心が無くなった自然環境に再び目を向けてもらうにはどうしたらいいのかが課題だと述べられました。

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 福岡県立水産高等学校アクアライフ科のみなさんからは、自然豊かな海づくりを目的とした活動「Project T」について報告していただきました。Project Tでは磯焼けや海の砂漠化を解決するために竹林整備や伐採した竹を活用して魚礁を製作しています。竹漁礁は改善が行われており、竹を割らずに用いた耐久性の高いまるごと竹漁礁が製作されました。改善の結果、小魚やイカの卵が観察されるようになりました。漁礁製作の他に、竹炭づくりや竹塩づくりといった竹の活用も行っています。山と海の関わり、また使われることが少なくなった山の資源をどう活用していくのかお話していただきました。

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 長谷川逸人・栁田壮真(九州工業大学環境デザイン研究室)からは、第2次福津市環境基本計画・生物多様性ふくつプランで示された7つの重要な自然環境の内、栁田からは海岸マツ林、長谷川からは干潟・里山を対象にした研究と保全の取り組みについて報告を行いました。海岸マツ林の環境については、福間・宮司・津屋崎の郷づくりの方々が健全な海岸マツ林の再生を目指した取り組みについて紹介し、海岸マツ林の景観を維持するためには、継続的に人の管理が必要であることを伝えました。干潟の環境については、カブトガニに着目した調査・研究の報告を行いました。津屋崎干潟では、カブトガニの産卵できる環境の質・量が低下することで個体数が減少していると考えられています。今後も調査を継続し、カブトガニが産卵できる環境の保全・創出が重要であることを伝えました。里山の環境は、これまでの調査結果から、生活様式の変化やインフラの整備と共に人の利用が減り、かつて大峰山から享受していた自然の恵みが失われたこと、利用が減ることでモウソウチクが拡大し、他の植物が育ちにくい環境に変化していることが分かっています。そこで、大峰山の森づくりのために地域の方々と協働で取り組んでいる活動について紹介し、今後は、大峰山からの資源を活用する仕組みづくりを行うことが必要であることを伝えました。

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 パネルディスカッションでは、初めに原﨑市長よりシンポジウムのご感想をいただきました。その後、伊東啓太郎教授をオーガナイザーとして、松田美幸副市長、星野幸代さん、鎌田磨人教授にパネラーとしてご登壇していただき、持続可能なまちづくりをしていくための具体的な施策や、SDGsに近づけるような今後の方向性について議論されました。
 原﨑市長は、最大の魅力である自然環境は保全すべきものであり、今後は循環型のまちづくりを市民全体で取り組むことが重要であると感想を述べられました。そして循環型のまちづくりを行うために研究機関と協力するという提言されました。
 鎌田教授からは、実現性や活動の持続性について検討した上で、50年先や100年先の具体的なビジョンを持ち、そのビジョンから振り返って現在すべき活動を考えることが重要だと述べられました。そして地域で取り組まれている環境保全活動を誇りとするために、それらの地域主体の活動とSDGsを結びつけることが重要であると述べられました。また多主体に共通する価値の共有や自然環境の価値への気づきが活動のきっかけとなると述べられました。
 星野さんからは、SDGsの経緯について述べていただきました。SDGsMDGs(ミレニアム開発目標)に次ぐ開発目標として掲げられた目標です。MDGsでは8つの開発目標が掲げられており、主に発展途上国で取り組まれていました。しかしSDGsでは、先進国も含めて取り組むべきという観点より、8つの開発を細分化し、現在の17の目標が掲げられました。環境に関する目標についても、もれなく細分化されることとなり、現在の目標となっています。星野さんは、環境に関する目標が細分化されたことで、総体的に大きな目標となり、取り組みが難しい課題となってしまったと述べられました。
 松田副市長からは、持続可能なまちづくりには、社会的包摂、環境保全、経済成長が必要であり、これらをバランスよく取り組むこと、具体的な目標を見据えた計画を立てること、市民全員がSDGsへ取り組むことが重要であるのではないかという提言をいただきました。またそれらの取り組みを通して誰もが自分事として関わってほしいと述べられました。パネルディスカッションを通して、福津市のビジョンを見据えて今後の取り組みを考えることが大事であるという意見や、福津市の活動団体や行政の取り組みがSDGsと結び付くような仕組みづくり、また、環境・経済・人を繋ぐ仕組みづくりが必要であるという意見をいただきました。

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 本シンポジウムは、第2次福津市環境基本計画、第2次福津市環境基本計画の策定段階から合わせて、9回目になります。今後も、環境について議論する場を設け、学んだことを研究に生かしたいと思います。